パーキング・スポット
宇宙最速を決める勝負に挑む命知らずなレーサーたちを描いたSFアニメ大作『REDLINE』。スピードに取り憑かれた者たちの狂乱のカーレースが色鮮やかに繰り広げられるこの映画の世界観を生み出した人なら、さぞかし刺激的なカーライフを送っているのでは、と安直な想像をしながら話を聞いてみると、映画の原作者である石井監督は拍子抜けするほど地に足の着いた優良ドライバーだった。
「スピードは全然出さないですね。警察につかまったり、免停になったりして時間を無駄にするのが嫌なんで。もちろん飲酒運転もしません。というより、そもそも僕は、どこの駐車場に入れるのかがあらかじめ決まっていないと、クルマで出かけたくないんです。イヤなのは、駐車場を探していて後ろからプッと鳴らされるとき。なんか周りに迷惑かけている気がして落ち着かないんですよ。運転そのものは好きなんだけど、知らないところ、狭いところがとにかく嫌い。」
「だから実はカーナビはよく使います。とくに今乗っているレクサスの〈オーナーズデスク〉ってサービスが物凄い便利で、もう他のクルマに乗れないんじゃないか、っていうくらい活用してます。例えば仕事で行くスタジオ周辺に駐車場があるか探したいときは、コンシェルジュが要望にあった目的地を検索して向こうから登録してくれるので、自分でカーナビを操作しなくてもいい。しかも24時間対応。便利でしょ?僕の場合、クルマはほとんど仕事でしか使わないけど、突然旅に出る人なんかはもっと便利だと思いますね。その日の宿探しとかレストラン探しとか、飛行機の予約取次までしてくれるらしいんで。」
「やっぱり、クルマの内装やインターフェースはすごく気になる方です。個人的には、さっぱりシンプルなものより、ある程度デザインの遊び心が見えるほうが好きです。その点、日本車はヨーロッパ車に比べると、少々ちぐはぐした感じが否めないですが、フィニッシュワークは本当によくできてるなっていつも思います。日本のテクノロジーで、痒いところに手が届く細やかな気遣いをされると、なんか嬉しい。日本車のディテールの細かさはどこにも負けないと思う。」
そう言う石井監督も、大学を卒業してすぐに東北新社でCMディレクターとして活躍し始めた頃から、ディテールの細かさと巧みさが業界内で評判となり、 クライアント企業が彼のスケジュールが空くまで待ってくれるほどの売れっ子になった。有名なコイケヤのポテトチップスから、木村拓也と岸部一徳が織りなす不思議な掛け合いが話題となった富士通FMV、そして、旭化成の“ひらめき”広告<イヒ!>シリーズをはじめ、誰の記憶にも残る人気CMばかりをいくつも演出してきた。
「最初のうち、僕は人を演出するのが苦手だったんで、“物撮り”(静物撮影のCM)がいいって会社に言ってたんです。そうしたら、見事に1年間タレントばっかり撮らされた(笑)。しかも、初仕事がジャニーズの東山紀之さんで。それまで先輩達の現場を見て来たから仕事の要領はわかるんだけど、演出なんかできないし、タレントに対しての口の聞き方すらわからない。“こんな演出したら怒られるかな?”とか思いながら試行錯誤の毎日でしたね。」
「幸いCMを撮り始めてから仕事が途切れることはなかったんですけど、大概は先輩監督のスケジュールが合わないときの代役で仕事が来るみたいな感じだった。だから、みんながやらないようなことをやったらもっと仕事くるかな?と思って、当時まだCGとかアニメをCMに入れる人がいなかったので、やってみようと。絵なら自分で描けたんで、アニメーションのちょっとしたエフェクトとかをCMのなかで始めたら、珍しがられて指名してもらえるようになりました。」
「15秒くらいのCMだと、CMプランナーが決めたことしかできない長さだけど、30秒くらいのバージョンでは、ちょっとずつ自分のテイストを入れてみたり、タイトルの出し方とか細かいディテールで遊んでみたり。そういうところに気づいてくれる人は、すごく判ってくれて、次も仕事を頼んでくれる。もちろんCMはクライアントの要望とか商品のために作るわけですけど、それでも結構早い段階から好き放題やらせてもらっていましたね。」
そうして早い時期からディレクターとして才能を開花させ、順調にキャリアを築いていながらも、CMを作り始めて一年ほど経った頃から、にわかに心境に変化が表れたという。そこから石井監督の不思議なパワースポット巡りが始まった。
「なんか、だんだんいろんなことに飽きてきちゃったというか。世の中には、もっと不思議なこと、面白いことがあると思っていたのに、そんなにないなあ、と。そんな時、日本の芸能界でバチーンと成功している人はみんな見てもらっているというセドナ在住のジョセフィーナさんというサイキックを紹介されて、なんか面白そうだから会いに行ったんですよ。そしたら会うなり“あなた今、天河神社に行こうとしてる?”って 言われて。確かに興味があって調べてたんで、“あれ、なんで判ったんだろう”みたいな(笑)。」
「天川は世界的にも有名な、スピリチュアル・パワースポットというか、霊感が強い人だと、白い竜とか、白い羽衣を来た天女が見えたりすると言われる場所で、僕は霊感はないんですけど(笑)やはりいろんな体験をしました。天河神社には、水と芸能の神がいると言われているので、結構、芸能人も多く参拝してますね。ジョセフィーナも天川は100回くらい訪れていて、僕も継続的に行った方がいいと言われたんで、それからしばらくハマって7回ぐらい連続して通ったかな。」
「旅をするときはだいたい電車が多いんですが、天河神社へ行く時は東京からクルマで行ってましたね。今でも神社へ行くのは好きで、ふと思いついて、神社行って拝んで帰ってくるみたいな。あとは、会社の子たちとロケに行ったりすると、必ずその土地の氏神様に挨拶しに神社に行ったり。一昨年の3.11震災後も、東京のインフラがダメになって仕事にならなかったんで、思い立って伊勢神宮まで運転して行ったし。そう考えてみると、神社へ行くときはいつもクルマだなあ。」
石井監督のヒーリングスポット、日本の神社にちゃんと駐車場があってよかった。
(取材•文 飯干真奈弥)