in collaboration with
NAVIelite
or

KOJI MORIMOTO (3/4)

森本晃司(もりもと・こうじ) 映像作家/演出家/DJ
Koji Morimoto

まだ見ぬ家族との団欒

森本晃司の朝は早い。毎朝6時には起床して、午前中いっぱい仕事に集中する。午後からは人に会ったり、街へ出かけたりして、夕方には吉祥寺駅前の飲屋街ハモニカ横丁へ。行きつけの店をはしごしながら、どこからか集い合う街の仲間たちと夜が更けるまで呑み語らう。店と客、客と客との境界線が緩やかな、“吉祥寺”という家族的コミュニティ体のなかに、森本の日常はある。

「これから良い意味で、この街もぐっと変わってくると思うよ。もっと街に昔みたいな屋台が増えたりね。吉祥寺の町づくり的なところに自分も協力してるから、ここでできることはなにかを日々探ってる。とにかく生活のなかにイベントをもっと取り込んでいくことが必要だと思う。」

「例えば、普段は入ったらダメって言われてるような場所をその日だけ開放するイベントとか。誰かの家の中とか庭に忍びこむとか(笑)。あとは、みんなで町中に音楽を鳴らして、一日だけ、一個の巨大な音の街を作っちゃうとかね。街の協力がないと出来ないようなことを皆でやる。遊びに来たくなるでしょ? 」

Koji Morimoto

「あたりまえになった日常のなかで、一個スイッチをはずしてあげることが大切。そういうことは、一気にはできないけど、ひとつひとつの小さな点をうまく繋げて線にするようなことをしたい。そういうイベントの輪を少しずつ広げて行って、世界中から人が集まるような楽しい仕掛けを皆で作りたいね。」

吉祥寺駅開業100周年記念事業として1999年に始まった「吉祥寺アニメワンダーランド」もそんな楽しい仕掛けの一つだ。吉祥寺と縁のある漫画家やアニメ作家たちが、街と一緒に作り上げて来たこのイベントは、今年で17回目を迎えた。森本は初年のポスターデザインなどメインビジュアルを担当して以来携わり、2005年から併設された「吉祥寺アニメーション映画祭」で審査員も務めている。

今年は、同じく地元在住の作家である大友克洋監督らと一緒にトークイベントにも登壇した。大友監督とは、『AKIRA』(1988)で設定と作画監督補として森本が担当してからの付き合いになる。当時、若干28歳での大抜擢だった。

「大友さんの『AKIRA』も、吉祥寺の映画。実際、あの爆心地は大友さんの家がある(隣駅の)三鷹ですからね。まさに、大友さんの家、そのスタジオそのもの。だから、あれは“ここ(爆心地)から世界をとるぞ”っていう、彼の意思表明だったわけ。この映画で世界を変えるという、その明確な意思のもとにみんな集結して作っていたよね。そして、実際にその通りになった。」

「大友さんが『AKIRA』でアニメ業界に入って来たときは、もう大騒ぎだったよ。当時、もう漫画家として大成して、みんなのカリスマみたいな存在だったから、僕らにしてみたら、わざわざ漫画家をやめてまでアニメを作りに来るなんて、という感じ。でもよく考えれば、もともと大友さんはフィルムをやりたい人だったから、彼にとっては、漫画はいわばその通り道、近道だったんだよね。そういう彼にとって貴重なタイミングにあの作品に参加できたのは、すごいと思います。」

Koji Morimoto

「今でも、大友さんと初めて飲みに行ったときのこと、憶えてますよ。荻窪あたりだったかな。仕事の帰り道でたまたま一緒になって、ちょっと一杯、のつもりが、8時間ぐらいずっと話をして。とにかく、自分はなにをやっている人間か、ということを、ひたすら話してた記憶がある。それからですね、しょっちゅう飲みに行くようになったのは。」

大友監督とはその後も、『Memories』や『Short Peace』などの劇場用オムニバス・アニメでもタッグを組んでいる。また、アニメ以外の分野でも、森本晃司という稀有な才能とコラボレーションをしたがるアーティストや企業は多い。相手が変われば、その作風も変幻自在だ。PVやCMのアートディレクション、空間デザインなど、ビジュアルクリエイターとしての活動ジャンルは、近年ますます多岐にわたっている。昨年は初めて、演劇『羊人間012』の脚本演出も手がけた。

「演劇は、映画やアニメと違って、時間が地続きになっているから、90分なら90分、ずっと繋がっている。それが面白いと思って。と同時に、怖くもある。稽古では最高によかったのに、なぜ本番になるとダメかとか。繋がっている芸術は勝手が違うなあと思って、それがすごく刺激的でしたね。」

「表現の方法にはこだわりはないです。安部公房や寺山修司、ミケランジェロが好きなのは、彼らは誰も職業として表現をやってないから。こっちもあっちもやっている、好奇心旺盛な人たちが個人的には好きだし、自分もそうでありたい。だから、いつも新しいもの、新しい表現を探しています。そのためなら、どんな手段でも探して使いたい。」

「ワクワクしなくなったら、なにか今ワクワクする別の方法で表現すればいい。それは、街や会社のなかでも同じこと。 “やるときはよろしく”みたいな、得意分野を持ちよる有機的な繋がりが理想だね。どうせ、一人でできることは限られているから。心からワクワクできることを見つけて、それを形にするために一時的に集まるからこそ、いいものができるんだと思う。いつもそこに‘有る’と思うから、大変なだけで。もともとないと思えば、なんでも楽になりますよ」

有るようで無い、無いようで有る。そんな日常のスイッチをひとつ外してみれば、この世界がときに連帯しては分裂し、新陳代謝をし続ける大きな細胞のひとつに過ぎないと気づくのだ。だからこそ、この時代に居合わせた私たちにできるのは、それぞれの力を少しずつ持ち寄り、分かち合い、そしてまた新たなワクワクを見つけに、しばし別れることの繰り返しなのかもしれない。それでも、私たちが最後に帰る場所はきっとひとつなのだ。そんな感傷に浸らせる、大家族の食卓のような包容力が、 吉祥寺という街には今も息づいている。

(取材•文 飯干真奈弥)

  Koji Morimoto
NEW PEOPLE

NEW PEOPLE Travelは、国境を越えて活躍するクリエイターたちをゲストに迎えて、日本の風景や旅、そしてクルマについて情報を発信するウェブマガジンです。世界が認めたビジョナリーたちだけが持つ独自の視点から日本の姿を語ります。 www.newpeople.jp

#Japan
#Travel
NAVIelite

NAVIelite(ナビエリート)は、カーナビのプロフェッショナル、アイシンAWが立ち上げたスマートフォン向けプロダクトの第一弾です。豊富な機能を持つ車載ナビがそっくりそのままiPhoneアプリになりました。新しいウェアラブルナビゲーションの世界をお楽しみ下さい。dribrain.com