in collaboration with
NAVIelite

Mamoru Hosoda (2/4)

細田守(ほそだ・まもる) 映画監督
The Girl Who Leapt Through Time

坂道、脇道、わかれ道

日本各地で〈アニメ・ツーリズム〉が活発化し始めたのは、いつからだろうか。アニメが日本人の日常に浸透し、カジュアルな文化として汎用化されてきた証とも言えるその現象を、好むと好まざるとに関わらず、細田作品もまた、物語の舞台となる場所が「聖地化」され、観光スポットとして賑わいを招いている。ファンの間では、作品の各シーンをつぶさに分析して、そのロケ地と思われる場所を巡って回ることを〈逆ロケハン〉と呼ぶそうだが、日常の風景をさりげなく映画に取り込んでしまう達人は、いつもどのように作品の舞台を選んでいるのだろう。

「ある場所を想定して、そこから受けたインスピレーションをもとに作品を作ることが好きなんです。『時をかける少女』を作ることになったときも、最初は京都とか、旅行気分でロケハンに行けたら楽しそうな場所でやろうとか、そういうアイディアもあったんですよ。でも、いろいろ考えているうちに、結局はどんどん近くなっていっちゃって(笑)。たとえば、駅前のシーンで参考にした新宿中井なんて、当時のマッドハウス(『時をかける少女』の制作スタジオ)からクルマで20分くらいの場所だしね。」

「もともと『時かけ』の実写映画版は、大林宣彦監督の出身地でもある広島県尾道が舞台で、その土地の風情とセットになって魅力的な映画なわけですけど、それも実は、当時のJR西日本がやっていたディスカバージャパンという観光キャンペーンの一環で尾道を選んだ 、ということを監督のインタビューで知ったんですよね。それじゃあ自分の場合は、同じような論法で観光地みたいな場所を描くのではなくて、もっと身近なところでやろうと思ったんです。」

The Girl Who Leapt Through Time

「『時かけ』のときは、普段からもともと目を付けていた場所たちを当てはめていくような感じでしたね。ここは有名じゃないけど面白いから、いつか使ってやろうと思っていた場所がいくつかあって。やっていくうちに、そういえば、あそこもあったなあ、という具合に思い出したり。」

「たとえば、東京は結構坂道が多い。有名な坂というのは山の手圏内に多くて、武家屋敷にちなんだ名がついていたり、歴史的な由緒があったりするんですよ。でも、それに比べると山の手圏外にある坂道というのは思いのほか知られていなくて。そういう意味でも、山の手圏外の住人として(笑)、こういう良いところもあるんだよ、っていうのを見せたかったんですよね。」

金沢の美大を卒業後に上京して以来、住まいも仕事場もずっと山の手圏外、西東京エリアだ。 最初に住んだのは、東映アニメーションがある西武池袋線沿いの大泉学園だった。

「東映アニメーションに入ってからは、おそらく当時の日本の最低賃金であろう時給250円くらいで仕事するところからはじまったわけですが(笑)、お金を稼ぐ場所というよりも、勉強させてもらいながらアニメ作りに関わらせてもらうという環境でしたね。とくに東映というのは勉強するには実にいいところなんですよ。なにがいいかというとね、とにかく人がいっぱいいて、すごく面白い人から頭のかたい人まで有象無象というか(笑)。一個の会社のなかでピンからキリまでが見える。だからよけいに勉強になるんですよ。」

「なにかを勉強しようと思うと、僕らはつい、一番優秀な人だとか、輝いている人のところへ行きがちじゃないですか。でもって、その輝きに逆に当てられちゃって、自分の力のなさに気づいて落ち込んでしまったりする。でも、学ぶべき人っていうのは、なにも輝いている人たちだけじゃないんですよね。」

「もちろん、東映にも輝いている人はいましたよ。たとえば、当時はセーラームーンが大流行していたから監督の幾原さんみたいに、東映の廊下のまんなかを堂々と歩いているようなスター監督もいれば(笑)、脇のほうで頑固にやっている古めかしい監督も相変わらずいて。そのどちらからも、学ぶところがたくさんあった。いまでも、作品をつくる途中は、そうした先輩監督たちのやり方をよく思い出して、あの人だったらどうするだろう、なんて考えたりしますよ。そういうところはすごく恵まれていたと思います。」

The Girl Who Leapt Through Time

どこの世界にも、上には上がいる。でも、きっとこの世で最も幸福なことは、自分の好きなヒト、モノ、コトに、直感的に出会うということなのだろう。

「父は鉄道職員でしたし、両親ともアートとはなんの関わりもなかったけれども、僕自身は小さい頃から、絵を描くっていうことに対しては人一倍敏感だったと思います。絵を描くことの本質的な“心地よさ“っていうのを物心つく前から知っていたし、これはきっと人生にとって素晴らしいことで、しかもそれは誰しもが自分と同じようには楽しめないことなんだろうな、ということはなぜか勘づいていたと思う。」

「絵を描くことも好きだったけど、映画的なカット割りなんかを夢想するのも好きでした。テレビも身近だったし、映像のなかのモンタージュ効果にすごく興味を持っていましたね。たとえば、 仮面ライダーがバイクに乗ってジャンプするシーンなんかを見ていたら、ジャンプしてから着地するまでの映像をどう見せたら一番かっこいいか、なんてことに興味がわくんです。」

「普通の子供だったらたぶん、ヒーローになりきってそこに意識が集中していくんだろうけど、僕の場合は、仮面ライダーでもバイクでもなく、どこか俯瞰の視点からそのシーンを捉えようとする意識だったと思う。きっとそういうところで、同じ子供であっても、道って分かれて行くものなんじゃないかな。...あの頃、仮面ライダーになりたかった子供たちは、みんな今ごろ何になっているのだろうね?」

(取材•文 飯干真奈弥)

  Oizumi-Gakuen
NEW PEOPLE

NEW PEOPLE Travelは、国境を越えて活躍するクリエイターたちをゲストに迎えて、日本の風景や旅、そしてクルマについて情報を発信するウェブマガジンです。世界が認めたビジョナリーたちだけが持つ独自の視点から日本の姿を語ります。 www.newpeople.jp

#Japan
#Travel
NAVIelite

NAVIelite(ナビエリート)は、カーナビのプロフェッショナル、アイシンAWが立ち上げたスマートフォン向けプロダクトの第一弾です。豊富な機能を持つ車載ナビがそっくりそのままiPhoneアプリになりました。新しいウェアラブルナビゲーションの世界をお楽しみ下さい。dribrain.com