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Katsuhito Ishii (3/4)

石井克人(いしい・かつひと) 映画監督
Hello!Junichi

映画が街と出会うとき

石井監督の最新作『ハロー!純一』は、なんとも贅沢な自主映画だ。なにが贅沢かといえば、 主演女優の満島ひかりが、日々殺到する出演オファーの多くを断ってまで、石井監督のためにスケジュールを組んでくれたことだけではない。ほかの出演者たち、製作スタッフ、そして撮影ロケ地である成田市役所の関係者たちまでもが、〈石井映画〉なるものの世界に触れたい、加わりたい、そして何より楽しみたいと自然に集まってくるという、その“下心”こそが贅沢なのだ。

「今回は、僕が以前やっていたワークショップ出身の吉岡敦君たちに演出を手伝ってもらって、冒頭の長まわしの会話のシーンを準備するために、子役たちと週1、月4回の6時間くらいのワークショップを3ヶ月間くらい続けましたね。最初は子供たちの台詞のスピードが遅くて全然芝居にならなくて、友達同士が普通に言い合いをするくらいの普通のスピードになるまで時間がかかった。おかげで結果的には、小学生の男子っていつも友達ときっとこんな具合にしゃべってるんだろうね、みたいな感じで面白がって貰える芝居になりました。」

「終わってみたら、成田市役所の方々ももちろん、ロケ地周辺の住民の皆さんもすごく協力的だったので助かりました。僕自身も、映画の撮影現場として、今までで一番楽しかった気がします。子役たちが9時までしか働けないので、大人たちも同じくらいには仕事を終えていたんですけど、とにかく撮影自体が楽しいので、市役所の人たちも、本当なら役所の仕事終わったら5時には帰っていいのに、なんか10時くらいまで僕らと一緒にいるみたいな。(笑)」

Hello!Junichi

「完全なる自主映画なんで、全部で20日間くらいの短いスケジュールで撮影したんですけど、 役所の方がロケ地近くのホテル(マロウドインターナショナルホテル成田)に交渉してくれて、今までロケで泊まったホテルで一番良かったんじゃないかなあ、ってくらい良いホテルを、めちゃくちゃ格安で借りられるようにしてくれたり、さらには、その値段では普通やってもらえないベッドメイキングを毎日サービスしてくれたり。 成田市長が積極的に応援して下さったおかげもあって、市をあげて協力してくれたんです。しかも、市長には映画にも校長先生役で出てもらったりもしています(笑)」

石井監督のロケハンの仕方は少し変わっている。映像の核となる場所を頭のなかで自由に思い描くことで、その場所がまるでGPSで居場所を知らせるかのように、自然と石井組を引き寄せるのだ。今回撮影をした成田市もまた、その例外ではない。

「僕の場合は、まず映画のなかに出てくる街や村の仮想地図をスケッチに描いて、それに一番近い場所を探すところから、ロケハンが始まるというか。たとえば『茶の味』のときは、まず“川”がなにより先に浮かんだので、それを中心に撮って行くつもりだったんですが、なかなか思い通りの川がある村を見つけることができなくて。そこで、映画のロケ地というより、スティール・カメラマンたちがよく撮影に使う場所をリサーチした結果、栃木県の茂木町を見つけたんです。そうして実際に茂木町へ言ってみると、目当ての川以外の場所もほとんど思い描いていたとおりの土地だったんですよね。」

「今回の『ハロー!純一』の場合も同じで、まず演出のチームに“登場人物の子供たちが住んでいる街を思い描いてごらん”と言ってスケッチを描かせたんです。それで、公園とか川とかが近くにあるこんな街、みたいなのを勝手に描いて。もちろん、そんな土地あるかどうかなんて最初はわからないんだけど、不思議と、それに当てはまる場所っていうのが見つかるもんなんですよ。」

「とにかく、まず“学校ありき”の映画だったので、撮影ができる校舎が見つかったら撮影を開始しようという感じでなんとなく始まって。そしたらたまたま、成田にある廃校になった小学校でCM撮影をしたという知人がいたんで、その紹介で成田市役所の観光プロモーション課の方に会いに行ったんです。で、実際にその学校へ行ってみたら、あとから、その周辺もあらかじめスケッチしていた地図にかなり近い環境だってことがわかって。不思議でしょ?」

Hello!Junichi

成田市での撮影の合間には、市役所の計らいで地元の神社で毎年執り行われているお祭りにも映画のスタッフと一緒に参加したという石井監督。それまでは、成田空港を利用する以外に訪れる機会のなかった成田という街の暮らしに、撮影を通じて短い間ながらも触れているうち、そこに住む人々の顔が少しずつ見えるようになったことが予想以上に大きな収穫だったという。

成田に実際に行ってみて驚いたのは、成田の上空では目に見えないところで一分間に100機近くもの飛行機が行き交っているらしく、とにかく外は一日中飛行機の騒音がすごい。でも、だからこそ校舎はどこも防音設備が整っていて、屋内での映画撮影としてはむしろ恵まれた環境だったんです。成田の人々が、この環境のなかで暮らして行くためにどんな工夫をしてきたのかが、見て初めてわかったというか。」

「僕らも、とにかく周囲の皆さんに迷惑かけないようにやりたいと思って、最初は空家とかを使って撮影しようとしてたんですけど、いつも美術デザインをお願いしている都築雄二さんのOKがなかなか出ないんで、結局、都築さんを成田に連れて行ったら、“ここがいい”、“あのシーンはここ”とか言って、いきなりどんどん決め出して(笑)。主人公たちが放課後集まるスタジオの撮影場所も、クルマ屋さんが倉庫として使っているところだったんですけど、オーナーのおじさんがいいよ、って言ってくれたんで、中の農機具全部だしてもらったりして、結局大ごとになっちゃった(笑)。純一の家を貸してくれた方にも大変ご迷惑おかけしました。」

「それでも、近所の人たちも変に野次馬的に集まったりせず、見て見ぬ振りをしてくれるとか、僕らのために炊き出しを作ってくれたりとか、本当に親切にしてもらいました。それって、それほど多くの地域で経験出来ることじゃないと思うんです。それだけじゃなく、成田の人たちが神社での行事とか、地域同士の絆とかをみんなで大事にしながら暮らしているのを見て、日本にもまだこういう良い文化が残っているんだなって、嬉しくなったり。これから、映画づくりを通じてこういう地域の活性化に貢献できたらいいなとか。というか、むしろ僕はもう、そういうことばっかりやって生きて行きたいですね。」

次に石井映画が街と出会う時、石井克人の頭の中には、あなたの住んでいる小さな街の地図が広がっているかもしれない。

(取材•文 飯干真奈弥)

  NARITA
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